2014年4月29日火曜日

韓国の威信、地におちる-(13):オバマ来日、最大の敗者は韓国大統領だった

_

 沈没事故という不運に見舞われた朴大統領は死に体になっている。
 もはや韓国の発言力あるいは発信力は僅かなものでしかない。
 この状況にあって韓国大統領の言葉に耳を傾けるような奇特な人は誰もいない。
 下手に口を開けば自分の首が危うい状況にある。
 そこへオバマの訪韓である。
 最悪である。
 ただオバマが早く韓国を離れてくれることを祈っていたにちがいない。


JB Press 2014.04.28(月)  宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40560

オバマ来日、最大の敗者は韓国大統領だった
メディアが書かない重要な教訓

 先週のハイライトは何と言ってもバラク・オバマ米大統領の国賓訪日だろう。
 夜東京に着いて2泊し、昼前にソウルに向け出発する「国賓ライト」バージョンではあったが、それでも「国賓」には違いない。
 米大統領訪日となれば議論はその成果に集中する。
 されば今回はオバマ大統領訪日の勝者と敗者について考えてみたい。

■割れる内外の評価


●訪日日程を終えソウルへ向かうオバマ大統領を見送る天皇・皇后両陛下〔AFPBB News〕

 内外マスコミの論調は割れた。
 安保を重視するか、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に焦点を当てるかで結論は異なる。

 最大公約数的な評価は、
★.安倍晋三首相が安全保障面で望むものをほぼすべて得たのに対し、
★.オバマ大統領にとってTPP・貿易交渉面での成果は必ずしも十分でなかった、
といったところだろうか。

 筆者はこうした表面的な分析を好まない。
 現実がそれほど単純でないことぐらい分かっているからだ。

 そもそも米大統領の国賓訪日は日本にとって一大外交行事。
 最終プロダクトは安保、経済など様々な分野を包含する大きなパッケージディールとなる。
 準備だけでも最低数カ月かかる大仕事なのだ。

 だが、マスコミや評論家たちは黙っていられない。
 今回の日米首脳会談についても、勝者と敗者に関する議論が散見された。
 しかし、本当に成功した外交には勝者も敗者もない。
 実際に、安倍首相とオバマ大統領は勝者でも敗者でもなかった。
 この点はオバマ訪日の成果を考えるうえで極めて重要である。

■中国に関するオバマ発言

 まずはオバマ大統領の実際の発言を検証してみよう。
 以下は4月24日の共同記者会見で同大統領が尖閣諸島と日米安保条約などについて述べた部分だ。
 微妙なニュアンスを理解していただくためにも、ここは英語を正文とし、筆者の責任で仮訳を付けさせていただいた。

- Our treaty commitment to Japan's security is absolute, and Article 5 covers all territories under Japan's administration, including the Senkaku Islands.
日本の安全保障に対する米国のコミットメントは絶対的であり、[日米安保条約]第5条は尖閣諸島を含む日本の施政権下にあるすべての領域を対象としている

- We don't take a position on final sovereignty determinations with respect to Senkakus, but historically they have been administered by Japan and we do not believe that they should be subject to change unilaterally.
米国は尖閣諸島に関する最終的主権問題の決定に関する立場を取らないが、歴史的に尖閣諸島は日本の施政権下にあり、米国としてはこれを一方的に変更すべきではないと考える

- This is not a new position, this is a consistent one. There's no shift in position. There's no "red line" that's been drawn. We're simply applying the treaty.
 (これは新たな立場ではなく、米国の立場は一貫している。
 米国の立場に変更はなく、これで「[武力行使を示唆するような]レッドライン」が引かれることはない。
 米国は単に条約を適用しているのである

- At the same time, as I've said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. And we're going to do everything we can to encourage that diplomatically.
同時に、この問題を巡り日中間で、対話や信頼醸成措置ではなく、[緊張]のエスカレーションが続くことは重大な誤りであり、このことは安倍首相にも直接伝えている。
 米国はこうした動きを外交的に全力で慫慂=しょうよう=していく

■勝者か、敗者か

 安倍首相は必ずしも勝者ではない。
 オバマ大統領が確認したことは1960年日米安保条約の内容に過ぎないからだ。

 この問題で米国政府はオバマ以前から慎重だった。
 日本の関係者が内心望んだのは中国が真に恐れる米国の明確な軍事介入約束だったろうが、米国がそこまで踏み込むことは当面ないだろう。

 一方、安倍首相は敗者でもなかった。
 TPP貿易交渉について、米国が望むような「原則合意」に追い込まれることはなかったからだ。
 TPP交渉の決着が見えてきたことは大きな前進だっただろうが、日本側は様々な理由から、今回「ブレークスルーがあった」と言うことを躊躇したのだろう。

 それではオバマ大統領はどうか。
 TPPについては上記の通りであり、オバマ大統領は勝者にはなれなかった。
 しかし、貿易交渉の最終段階では数日間の徹夜など当たり前である。
 日本側の甘利明内閣府特命担当大臣と米側マイケル・フロマンUSTR(米国通商代表)が疲れ切って初めて、本当の交渉が始まったと考えた方が実態に近いのだろう。

 一方、オバマ大統領は敗者でもなかった。
 今回も領土問題に関する中立的立場を引き続き維持している。
 また、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を明言しても、具体的な軍事介入を約束したわけではない。
 その点はレッドライン発言が問題となった昨年9月のシリア化学兵器使用問題とは大きく異なる。

■中国は敗者か

 それでは敗者は中国だったのかというと、必ずしもそうではない。
 確かに東京でのオバマ発言は従来より一歩踏み出したものだ。
 しかし、それで中国は本当に驚いているだろうか。
 相変わらず中国外交部の報道官は激しく反発しているが、中国の最高レベルの政治指導者はそれほどナイーブではないだろう。

 繰り返すが、今回オバマ大統領が述べたことは1960年安保条約の内容を踏襲したものだ。
 中国人民解放軍関係者なら、中国周辺海域における最近の米軍と自衛隊の動きをよく承知しているだろう。
 万一尖閣有事が発生した際、米国の来援は恐らく中国側の軍事戦略や作戦計画に既に織り込み済みだと思う。

 それでは真の敗者はだれなのか。
 筆者の独断と偏見は以下の通りだ。

●安保問題、特に安保条約第5条適用と集団的自衛権に関するオバマ大統領の発言は日本国内の集団的自衛権などを巡る与野党間の議論に微妙な影響を与える可能性がある。

●この点は、日米安保関係拡大に批判的な野党はもちろんのこと、与党の一員でありながら集団的自衛権に関する憲法解釈の変更に消極的な公明党を含む与党の一部にとって影響は小さくないだろう。

もう1つの敗者は韓国政府かもしれない。
 これまで朴槿惠大統領は日本の「歴史認識」や安倍首相の「靖国参拝」などを口実に日米韓、特に安全保障分野での日韓関係の深化に一貫して消極的だった。

●だが、今やオバマ大統領が日本との安保関係をこれほど重視する以上、今後とも日韓関係改善に向けた米国の韓国に対する働きかけが続くと見るべきだろう。

 ちなみに、今回のオバマ大統領訪日で中国は敗者にならなかったが、
★.オバマ大統領のフィリピン訪問では中国が最大の敗者である。
 この点については、機会があれば、いずれご説明したい。

■オバマ大統領訪日の教訓

 オバマ大統領訪日で得られた最大の教訓は「静かな外交」の重要性だと考える。
 訪日計画が発表されて以来、日米両国政府は「靖国参拝」について沈黙を守ってきた。
 特に、米側は日本に対する批判的発言を意図的に控えてきたように見える。
 昨年末の不幸な「失望」声明とは大いに異なるアプローチだ。

 米国が「靖国参拝」を快く思っていないことは事実だろう。
 だが、そのことを水面下で日本政府に対し静かに働きかけるのと、逆にメディアの前で公然と日本側を批判するのとでは、その外交的効果に雲泥の差がある。

 これまでも米国は日本の歴史問題を「静かな外交」で処理してきた。
 米国にとって東アジアで最も重要な国益は、日本の首相を公然と批判して靖国参拝を思いとどまらせることではないはずだ。

 今回の米国外交は結構プロフェショナルかつ効果的だった。
 こうした英知が日米関係に戻ってきたことを素直に歓迎したい。

宮家 邦彦 Kunihiko Miyake
1953年、神奈川県生まれ。東大法卒。在学中に中国語を学び、77年台湾師範大学語学留学。78年外務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。在北京大使館公使時代に広報文化を約3年半担当。現在、立命館大学客員教授、AOI外交政策研究所代表。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。







_