2014年3月8日土曜日

なぜかくも、韓国「財閥経営者の犯罪」が多いのか?:人倫の乱れか、やはりゼニこそ命なのか?

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●SKグループは韓国でサムスングループ、現代自動車グループに次ぐ3位の大手財閥〔AFPBB News〕


JB Press 2014.03.07(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40111

SKグループに悪夢の「オーナー兄弟不在」
韓国最高裁で懲役刑確定、経営不在を克服できるか?

 2014年2月27日は韓国第3位の財閥、SKグループにとって、悪夢の1日になった。
 この日、大法院(最高裁判所に相当)は、横領などの罪で2審で有罪判決を受けていたオーナーである崔泰源会長(チェ・テオン=53)と実弟である崔再源副会長(チェ・ジェオン=50)に対する上告審でそれぞれ2審判決通りの実刑有罪判決を出した。

 トップ2人の獄中生活が続くことになった。
 崔泰源氏は近く、グループ企業の役員からすべて退く。
 「会長」職は維持する見通しで、大株主であることにも変わりはないが、経営の一線から退くこととなり、SKグループの経営に大きな影響が出ることは必死だ。

■減刑の期待も虚しく、会長、副会長に実刑判決確定

 大法院は、個人的な投資の失敗の穴埋めのためにグループ会社の資金450億ウォン(1円=10ウォン)を流用したなどとして横領などの罪で2審で有罪判決を受けていた崔泰源会長に対して懲役4年、崔再源副会長に対して3年半の実刑判決を出した高裁判決が適当だとの判断を示した。

 SKグループでは密かに、大法院判決が高裁判決を差し戻し、減刑または執行猶予付き判決が出る道が開けるという期待があった。
 というのも、2014年2月に出た財閥総帥に対する裁判で、「期待を抱かせる」判決も出ていたからだ。

 2月11日にソウル高裁は、背任や横領で1審で実刑判決を受けたハンファグループの金升淵会長(キム・スンヨン=62)に「懲役3年、執行猶予5年、社会奉仕活動300時間」の判決を下した。
 同じ日、同じ高裁でLIGグループの具滋元会長(ク・ジャウォン=79)に対しても「懲役3年、執行猶予5年」の判決が出た。

 執行猶予付きとなれば、事実上経営復帰が可能となる。
 韓国では財閥総帥の経済犯罪の場合、「懲役3年、執行猶予5年」という判決が多かった。
 しかし、「経済犯罪に対する判決が甘い」という世論の反発もあり、ここ2~3年、実刑判決が増えていた。

 ハンファグループとLIGグループ会長に対する判決で、再びもとの「懲役3年、執行猶予5年」という判決に戻るのではないかとの期待が出ていたのだ。

 しかし、その3日後にはソウル地裁で機密資金を作るなどして会社の資金を横領したなどの罪で起訴されたCJグループの李在賢会長(イ・ジェヒョン=53)に対して「懲役4年」の実刑判決が出たばかりで、SKグループ外での「事前予想」は錯綜していた。

■犯罪の悪質さや心証の悪さ、健康さも不利に?

 SKグループの会長兄弟に対して実刑判決が出たのは、個人的な財テクの失敗を会社の資金で穴埋めしたという「犯罪の悪質さ」。
 さらに、裁判の過程で兄弟が証言をくるくる変えて、裁判官の心証を悪くしたことなどを指摘する声が多い。

 また、ハンファグループ会長は重病で入退院を繰り返していた。
 LIGグループ会長も80歳近い高齢で持病を抱えていたのに対し、SKグループ会長兄弟が比較的若く「健康だ」という点も、マイナスに働いたと言う法曹関係者は多い。

 SKグループは、2013年春時点で資産規模が140兆6000億ウォン。
 韓国ではサムスングループ、現代自動車グループに次ぐ3位だ。
 傘下に携帯電話サービス1位のSKテレコムやエネルギー会社最大手、半導体大手のSKハイニックスなどを抱え、グループの輸出額は82兆ウォン、従業員数は8万人近くの巨大財閥でもある。

 崔泰源会長は、創業者の実弟で2代目オーナー会長で全国経済人連合会会長などを務めた崔鍾賢(チェ・ジョンヒョン)氏の長男だ。

 崔泰源会長は、実弟で金庫番である崔在源副会長と2人でグループの全権を握る文字通りのオーナー会長だ。
 そのオーナー兄弟が刑務所に入るとなれば経営に大きな打撃となることは間違いない。

■「つなぎ」の集団経営体制に限界、実刑判決は「国家的リスク」の声も

 SKグループは、2013年1月に崔泰源会長が1審で実刑判決、即時拘束命令を受けて拘置所に入って以降、専門経営者による集団経営を続けてきた。
 日常業務は専門経営者でこなせても、人事と大型投資という経営の根幹にかかわる問題についてはすでにかなりの支障が出ていたという。

 「毎日経済新聞」によると、2013年1月に会長が拘束されて以来、韓国内でのエネルギー企業の買収や豪州企業の買収、アフリカ資源開発案件、中国資源関連事業など大型案件での意思決定ができない状態が続いている。

 実刑判決が確定したことで崔泰源会長は2017年1月まで、崔在源副会長も2016年9月まで刑務所での生活が続くことになる。

 最高意思決定者が不在のままどう経営を進めるのか。
 同紙は、SKグループの巨大さから見て、単なる1グループの経営問題というよりは、「実刑判決は国家的リスクだ」と報じた。

 韓国メディアは当分の間、SKグループは専門経営者で構成する協議会で案件を話し合う集団経営体制を維持すると見ている。
 創業者の息子で崔泰源兄弟のいとこにあたるSKケミカル副会長の役割が大きくなるとの観測もある。
 また、「朝鮮日報」は仮釈放などで実質的な刑期が短くなる可能性があるにしても、「大法院判決で崔泰源会長の経営復帰可能性が相当低くなったとの観測も出ている」とも報じている。

 それにしても財閥総帥の犯罪は本当に多い。 
 2月も主要な判決だけでも4件もあった。

 さらに、暁星グループや東洋グループの会長の経済犯罪を巡る裁判も続いている。

 絶対的な権限を持つオーナーによるリスクをいとわない即断即決の意思決定スタイルが韓国の財閥の強みだったことは間違いない。

■真価問われるオーナー経営

 「漢江の奇跡」と呼ばれた超高度経済成長も、政府の強力なリーダシップと起業家精神にあふれて1日24時間、1年365日世界中を駆け回って貪欲に働いた財閥総帥の二人三脚で実現した。

 ただ、韓国の急成長は、効率性を最優先する「圧縮成長」で、
 ある程度のことには「目をつむる」ことで達成できたことも確かだ。
 「会社のカネは自分のカネ」という錯覚や、息子に何が何でも後を継がせようとする無理な世襲などさまざまな問題が噴出していることも事実だ。

 また、財閥総帥の犯罪は確かに多いが、ここ数年、犯罪とは無縁の財閥も多い。
 時代の流れ、時代の要求に対応できる財閥(オーナー)とそうではない財閥(オーナー)の淘汰作業が起きているとも言えるのだ。

 時代の流れを読んで企業統治改革や社会貢献などに力を入れているグループもあれば、経営の失敗で銀行管理下になりながら息子を後継者に据えようとしているオーナーまで、さまざまな動きがある。

 今後も総帥の犯罪摘発は続くだろうし、破綻や解体になる財閥も出てくるだろう。

 当たり前のことだが、オーナー経営のすべてに問題があるわけでも、すべてが正しいわけでもない。1つ言えることは
 「これまでのやり方通りでは通用しない」
ということだ。

玉置 直司 (たまき・ただし)Tadashi Tamaki
日本経済新聞記者として長年、企業取材を続けた。ヒューストン支局勤務を経て、ソウル支局長も歴任。主な著書に『韓国はなぜ改革できたのか』『インテルとともに―ゴードン・ムーア 私の履歴書』(取材・構成)、最新刊の『韓国財閥はどこへ行く』など。2011年8月に退社。現在は、韓国在住。LEE&KO法律事務所顧問などとして活動中。







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