2014年2月6日木曜日

優秀なのはどっち?::韓国と日本の水陸両用戦能力

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●120ミリ迫撃砲で高性能爆薬弾実射訓練中の陸上自衛隊


JB Press 2014.02.06(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39863

優秀なのはどっち? :韓国と日本の水陸両用戦能力

 アメリカで接する東アジア軍事情報は、連日のように中国軍関係の話題が氾濫している。
 本コラムでも続けて中国軍事動向を取り上げざるをえないのであるが、その中国軍の覇権主義的拡張主義に対処すべく日米同盟を現場レベルで強化している努力に関しては、なぜか日本のメディアが取り上げていないようである。

■派手さはないが実戦的な合同訓練

 2013年に引き続き、カリフォルニア州サンディエゴ郊外のアメリカ海兵隊キャンプ・ペンドルトンを中心にアメリカ海兵隊(第15海兵遠征隊)と陸上自衛隊(西部方面普通科連隊)の合同訓練が開催されている。

 1月23日から2月20日まで開催される日米合同訓練「アイアンフィスト2014」は今年で9回目となり、回数を重ねるごとに訓練内容はより実戦的になりつつある。
 初期の頃は、陸上自衛隊との合同訓練の機会が少なかったアメリカ海兵隊にとっては、陸上自衛隊との絆を深めるといったシンボリックな側面が重視されていたと考えられるが、中国海洋戦力が日米同盟に対して牙を向き出してきた昨今は、とりわけアメリカ海兵隊と陸上自衛隊の間の相互運用性の構築に向けて実戦を想定した訓練へと進化を遂げている。

 アイアンフィスト2014が開催されてから(本稿執筆段階で)1週間ほどの間には、日本のメディアが飛びつくMV-22Bオスプレイ中型輸送機を使用した高速移動訓練や、オスプレイ同様に中期防で購入が謳われているAAV-7水陸両用強襲装甲車での上陸訓練などの“派手”な訓練が実施されていないためか、日本ではあまり報じられていないようである(アイアンフィスト終盤には、訓練のまとめとしての合同上陸演習が実施されるため、その模様は“島嶼奪還上陸訓練”といった派手なタイトルで報道されるものと思われる)。

 しかしながらこの1週間でも、ヘリコプターからの降下着水上陸訓練、海兵隊威力偵察部隊との合同訓練、「ANGLICO」(海兵隊部隊に対する支援砲爆撃を統制するために海軍艦艇、海兵隊以外の部隊、多国籍軍や同盟軍などの外国軍部隊などに派遣されて効果的な砲爆撃をアレンジする海兵隊独特の高度な専門部隊)との合同訓練、強力な火砲の実射訓練、第一海兵師団学校での合同射撃訓練、ゴムボート・ナビゲーション訓練、その他各種技術の講習、といった具合に、日本のメディアにとっては“地味”で興味が湧かないかもしれないが、水陸両用戦能力、そしてアメリカ海兵隊的能力を身につけるためには不可欠な各種技能の合同訓練が実施されている。

 もちろん、これまで政府や国会の怠慢により、自衛隊に水陸両用戦能力やアメリカ海兵隊的(水陸空統合運用+水陸両用戦+緊急展開)能力を身につけさせずにいたため、合同訓練といっても、
 現段階では海兵隊側が陸自側を指導し、海兵隊の持てる技術や知識を伝授するという段階である。

■陸自の水陸両用戦能力獲得を待ち望むアメリカ海兵隊

 アメリカ海兵隊的能力や水陸両用戦能力は日本防衛に必要不可欠と言える軍事能力である。
 しかし数年前までは、自衛隊にはそのような能力はほとんど備わっていなかった。

 筆者だけでなく自衛隊の実情を熟知する海兵隊や海軍をはじめとするアメリカ軍事関係者たちは、自衛隊に水陸両用戦能力がほぼゼロに近い状態では、とても中国海洋戦力には対抗できない、と強い危惧の念を抱いていた。

 そのため、すでに2009年前後からそれらの人々は筆者の書物やコラムに対して意見や資料を提供し、「少しでも日本にそのような能力を保持してもらいたい」との願いが実現することを期待していた(拙著『米軍が見た自衛隊の実力』『写真で見るトモダチ作戦』『尖閣を守れない自衛隊』、本コラム「『日本海兵隊』はこうつくる」「米海兵隊と陸自が大規模共同訓練を実施」「日米合同訓練で浮き彫りに、日本の防衛体制の弱点と課題」「『ナッチャンWorld』では役に立たない島嶼奪還」などを参照いただきたい)。

 そのようなアメリカ海兵隊関係者たちにとっては、自衛隊自身はもちろんのこと、なにより安倍政権が水陸両用戦能力の構築に本腰を入れ始めたことは自分たちの希望が実現に向けて大きく舵を切ったわけで、まさに大歓迎の事態到来といったところである。

■韓国軍の水陸両用戦能力

 先日も、海兵隊ならびに海軍や陸軍関係者たちの間で、どの東アジア諸国(中国や北朝鮮といった敵性国家を除いて)の水陸両用戦能力が最も強力であろうか?
 という話題が持ち上がった。

 アメリカ陸軍関係者たちは
 「それはなんといっても韓国軍だ
と即座に答えたが、アメリカ海兵隊関係者たちは
 「これまではともかく、極めて近い将来には間違いなく自衛隊になる
と反論し、議論が盛り上がった。


●スナイパー訓練実施中の陸上自衛隊員

 実際、自衛隊には存在しない(しなかった)「海兵隊」という組織の存在だけを考えると、
 韓国・
 台湾・
 ィリピン
 ・マレーシア・
 ベトナム
 (それに中国)
には以前より存在している(名称は「海兵隊」であったり「海軍陸戦隊」と様々ではあるが)。
 そして、それらの国々の海兵隊は水陸両用戦闘車両なども保有し、アメリカ海兵隊との合同訓練(台湾の場合は別であるが)も実施している。

 しかし水陸両用戦能力は海兵隊や水陸両用戦闘車輌をはじめとする専用装備の存在だけでは評価できず、海兵隊とは密接不可分な海軍水陸両用戦隊の能力、現代の海兵隊にとって必要不可欠な海兵隊と統合的に運用される航空戦力(アメリカ海兵隊の場合は自前で保持している)の能力、それにドクトリン・戦略・戦術・組織論・意思決定論などソフト面の質、などを総合的に判断しなければ判断できない。

 たしかに、現時点において海兵隊という組織だけに焦点を当てるならば、
 ベトナム戦争以来の伝統を誇る韓国海兵隊(兵力28000名、AAV7水陸両用強襲車162両)は、上記のアメリカ陸軍幹部たちが指摘するように東アジア最強の海兵隊かもしれない。

 しかしながら、強襲揚陸艦「独島」を保有するとはいえ、韓国海軍の水陸両用戦能力も、韓国海兵隊と密接に運用されるべき各種航空戦力も、ともに低調である。

 そして何よりも、韓国の大好きな歴史に目を向けると、韓国海兵隊はベトナム戦争で悪名高い非戦闘員虐殺事件を起こしている。
 1968年2月12日に韓国海兵隊第2海兵師団(青龍師団)は79名を虐殺し(フォンニィ・フォンニャット虐殺)、
 1968年2月25日には韓国海兵隊第2海兵師団が135名を虐殺した(ハミ虐殺)。

 一方、陸上自衛隊の水陸両用戦能力は構築され始めたばかりではあるが、指導に当たるアメリカ海兵隊関係者たちは陸上自衛隊の飲み込みの早さに舌を巻いている。

 もっとも日本人の筆者から見れば、今まで自衛隊は水陸両用戦能力を持ちたくとも政治が阻んでいたため、現在はアメリカ海兵隊に教えを請うている状態なのであり、いざ本格的に構築し始めればアメリカ海兵隊のレベル(隊員の練度という点)にはたちまち到達するはずであり、そのような日本の若者に備わる素質を、残念ながら海兵隊は知らなかっただけなのである。

 同様に、海上自衛隊は現時点では強襲揚陸艦は保持していないが、ヘリコプター空母や輸送揚陸艦それにLCACといった水陸両用戦用の艦艇は少なからず保 持しており、韓国海軍とは質・両共にレベルの違う海軍力を保持している。
 そのため本格的に水陸両用戦能力を構築し始めれば、極めて強力な海上自衛隊水陸両 用戦隊が誕生すると考えられる。

 そしてなんといっても、韓国軍(ベトナム戦争では韓国海兵隊部隊以上に韓国陸軍部隊は残虐な虐殺事件を多数引き起こした)と違って自衛隊には非戦闘員を虐殺した暗い歴史は存在しない。
大前提を忘れてはならない

 アメリカ海兵隊関係者たちは、このような諸要件を考慮することによって、「極めて近い将来には、自衛隊が東アジアで最強の水陸両用戦能力を保持することに疑問の余地がない」と米陸軍幹部に反論したのだった。

 もちろん、そのためには、

(1).日本防衛に適合する水陸両用戦のドクトリンや基本戦略の構築といったソフト面の充実、
(2).眼前の敵を倒すための強固な意志と戦闘意欲、
(3).民主国家軍事組織にとって不可欠である幅広い国民からの理解とサポート、
(4).そして何よりも国防予算(水陸両用戦能力構築は最もコストがかかる軍事力の一分野とされている)を少なくとも倍増、

という困難なハードルを乗り越えることが大前提になるのは言うまでもない。

北村 淳 Jun Kitamura

戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。




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